LOVE BLUE
~地球の未来を~
つり環境ビジョンコンセプトをもとに進めるLOVE BLUE事業のひとつ、「専門機関と連携した放流」。放流活動のクライマックスとなる東京湾口へのマダイの稚魚放流が、7月29日(金)に行われました。放流は毎年、公益財団法人神奈川県栽培漁業協会がチャーターした活漁運搬船を利用して行われます。受精卵から育成したマダイの稚魚を、早朝より活漁運搬船に積み込み、6時過ぎには生簀(いけす)がある小網代を出航。元気に育っていくことを願い、大海原に放流しました。
放流前に体長、重量を計測
大海原に放つ準備OK!
 放流日前日の7月28日(木)、マダイの稚魚計測が行われました。午前8 時、神奈川県栽培漁業協会に集合。栽培漁業協会のスタッフの皆さんとともに、LOVE BLUE取材班は、マダイを育成する小網代の生簀(いけす)に向かいました。小網代の生簀では細かく区分けして稚魚を育成していますが、今年度はそのうち13面分をマダイの稚魚育成のために使用しています。その中からひとつの面を選び計量。1面分の数値から13面全体のマダイの稚魚の尾数を算出します。実数よりも多く見積もることがないように、やや少なめの尾数がいる面を選び、計量するようにしています。
 1面に限って計量する理由は、できるだけ稚魚にストレスを与えないようにするためで、作業時間も約30分で終了しました。
  計量作業は、網の片方に稚魚を寄せ、タモですくって樽に入れます。このとき最初から樽の中に入れておいた水の重さを引いて、稚魚だけの重さを計算します。計量を終えた稚魚は隣の空いている面に移します。1面分の稚魚の総重量を算出したら、あらかじめ測定しておいた稚魚1匹分の重さで割って1面分の尾数を算出するのです。この作業をおよそ10回繰り返すと、1面の計算が終了しました。
計量の様子を動画で撮影しました。ぜひご覧下さい。
計量では尾数の算出だけでなく、放流前のマダイの稚魚の様子もしっかりと確認します。
 計量の結果、本年度、放流を迎えるマダイ稚魚全尾数は約71万5000尾と推定(LOVE BLUE事業分20万尾を含む)。放流を翌朝に控え、マダイ稚魚育成リーダーの鈴木将幸主査にお話を伺いました。
「マダイの稚魚は、とても順調に育っています。マダイは、小さいうちはエサをすぐ消化してしまうため、たくさん与えます。沖だしできるぐらいに大きくなると、胃が大きくなり食溜めできるようになり、エサを与える回数が減ります。マダイは、夜寝ているので、昼の時間帯におなかをすかせないよう、気を配ります。ただし大きくなりすぎると、生簀内の密度が上がるためストレスでぼろぼろの魚になってしまうので、エサの量のコントロールも行っています。また、エサの栄養バランスにも気を配ります。あまり栄養価を高くすると、骨が変形してしまうためマダイの大きさ、形を見ながら調整します。こうした工夫のおかげで本年度もとても綺麗な形をしたマダイに育ってくれました。エサだけではなく、海上生簀の網もマダイの育成にとって重要です。網替えが遅れると酸欠状態になり、死んでしまいます。マダイの稚魚のストレス軽減も工夫しました。狭い空間で育成しているため、そのストレスから、鼻腔が欠損してしまいます。またこれ以上狭い空間で育成してしまうと、目が欠損することもわかっています。そこで今年度は、昨年より生簀の使用面数を増やし(昨年11面→今年13面)、より密度が低い水中で育成しました。おそらくマダイの稚魚たちが感じるストレスは、軽減されただろうと思っています。これらの工夫を経て順調、かつ元気に育ってくれたことで、僕たちスタッフもマダイの稚魚育成に関して例年以上に大きな手応えを感じることができました」
今年のマダイの稚魚育成には、例年以上の手応えを感じたと語る鈴木将幸主査。
 計量後は栽培漁業協会に戻り、隣接する神奈川県水産技術センターで計測を行います。1尾ずつ稚魚の体長(尾叉長(びさちょう)※および全長)と湿重量を計り、記録していきます。そのとき、鼻孔隔壁欠損の有無を顕微鏡で調べます。マダイの稚魚は個体差があるため100尾の体長と重量を計測し、平均値を算出します。今年度は平均体長76.5mm、平均重量8.49gとなりました。鼻孔隔壁欠損率(片方欠損、両方欠損含む)は98.0%。人工的に育成したマダイ特有の特徴である鼻孔隔壁欠損が、ほとんどのマダイに見られたことになります。鼻孔隔壁欠損は天然マダイとの大きな違いです。これは、放流後の効果測定時に"放流マダイを見分ける印"として役に立つことになります。栽培漁業協会の今井利為専務理事によると、鼻孔隔壁欠損は、放流後のマダイの成長には大きな影響はないとのことです。
※尾叉長とは、頭の先(体の先端)から尾びれの切れ込んだ内縁中央部までの長さのことです。
体長(尾叉長および全長)と湿重量を計測し、顕微鏡で鼻孔隔壁欠損の有無も確認します。
鼻孔が正常なマダイの稚魚の様子。(画像提供:神奈川県栽培漁業協会)
鼻孔隔壁欠損のマダイの稚魚の様子。栽培漁業協会の今井専務理事によると、成長には影響はないと言われています。(画像提供:神奈川県栽培漁業協会)
金沢、久里浜、松輪の沖合で、
マダイの稚魚を放流!
 
 7月29日(金)、午前4時。放流当日を迎え、栽培漁業協会のスタッフの皆さんとともにLOVE BLUE取材班は、海上筏・生簀がある小網代に向かいました。放流は毎年、活魚運搬船を使用して行います。今年は、愛媛県宇和島港所属の300トンの活魚運搬船「好宝丸」が放流場所まで運搬してくださいます。

 うっすらと夜が明け始めた4時半ごろ、スタッフの皆さんは小網代の海上筏(いかだ)の上で生簀網のロープを外したり、防鳥ネットを外したり、稚魚を活魚運搬船に積込む準備をしていきます。しばらくすると、活魚運搬船「好宝丸」が沖から近づいてきました。船が海上筏にゆっくりと横付けすると、船と筏がロープで固定され、マダイの稚魚の積込み作業が始まりました。
午前4時半過ぎ、海上筏の上で作業をしていると活魚運搬船「好宝丸」が近づいてきました。
 活魚運搬船のクレーンで操作する大きなタモで、海外生簀にいる稚魚を海水ごとすくっていきます。慎重に大タモを引き上げて、船の生簀にマダイの稚魚を積込みます。この作業を繰り返し、約1時間半で、積込みを終了。午前6時過ぎ、活魚運搬船「好宝丸」は最初の放流場所である、横浜市の金沢沖へ出航しました。
小網代の生簀にゆっくりと横付けする活魚運搬船「好宝丸」。積込み作業が始まりました。
今回放流したマダイの稚魚。
積込みの様子を動画で撮影しました。ぜひご覧下さい。
海上筏の生簀網から活魚運搬船のクレーンで操作する大タモでマダイの稚魚をすくい、船の生簀に入れます。この作業を繰り返し、1時間半ほどで積込みを終了しました。
 午前8時頃、横浜市の金沢沖に到着。ここで、LOVE BLUE事業として委託したマダイの稚魚放流20万尾のうち5万尾を放流しました。船の生簀からマダイの稚魚をすくい上げて、大タモで洋上へ放流。ゆっくりと海中におろし、大タモの網を開くとマダイの稚魚たちが一斉に放たれます。9時過ぎには横須賀市の久里浜沖で10万尾、10時過ぎには三浦市の松輪沖で5万尾を放流。計20万尾のマダイの稚魚は、大海原へ元気に泳いでいきました。放流当日は快晴で、海況も穏やかで、船からは房総半島、伊豆大島、利島、丹沢山塊まで見通すことができました。
LOVE BLUE事業として委託したマダイの稚魚放流が行われたのは、横浜市金沢沖、横須賀市久里浜沖、三浦市松輪沖の計3カ所です。(資料提供:神奈川県栽培漁業協会)
船内にLOVE BLUEの横断幕を掲げさせていただきました。
迅速な作業を行うため放流場所に合わせて活魚運搬船の水槽の位置をあらかじめ決めていました。
生簀から大タモですくい上げたマダイの稚魚を東京湾内3カ所で放流いたしました。
放流の様子を動画で撮影しました。ぜひご覧下さい。
 4月から始まったマダイの稚魚育成は、受精卵搬入、室内水槽での育成、海上生簀での育成を経て7月29日に放流。これまでの約3ヶ月間を振り返り、マダイの稚魚育成サブリーダー 小笠原裕起主任技師は、活魚運搬船への積込み後にこう話してくださいました。
「放流まで無事に辿り着けて、とにかくいまはホッとしています。今年はマダイの育成過程においてエサや密度を工夫したことが例年以上に良い結果に結びつきました。例えばエサとして与える栄養強化剤を2種類使って、マダイの稚魚たちの栄養摂取に偏りが出ないようにしたり、沖出しの際に海上生簀までマダイの稚魚を運ぶ容器数を5つにして密度を下げたり(昨年は4つ)、小さな試みでも工夫を積み重ねることで、例年以上に、形のキレイなマダイの稚魚に育てることができました。今年放流したマダイの稚魚たちは3〜4年後には成魚となります。元気に育ってくれたら、うれしいですね」
沖出し後の育成は天気、水温、網の汚れなどから、エサの量を、毎日、的確に判断する必要があったと語る小笠原裕起主任技師。
 4年目の活動となる「専門機関と連携した放流事業」は、今年も無事、放流作業を終了しました。次回は、これまでの放流活動に関する効果についてレポートしたいと思います。どうぞ、お楽しみに。

次回をお楽しみに
2016.7.20
Vol.15 元気なマダイの稚魚を 育てるための工夫と愛情
6月初旬、育成過程のなかで大事な節目ともなる「沖出し」が行われました。放流を夏に控え、これ以降、海上筏の生簀網でマダイの稚魚たちを育てていくことになります。今年度の沖出しは育成スタッフによる新たな工夫も加えられ、マダイの稚魚たちは例年以上に元気いっぱいです!
マダイの稚魚の状態を
なによりも最優先に考える
 6月3日(木)、マダイの稚魚の「沖出し」が行われました。沖出しとは、これまで室内水槽で育成していたマダイの稚魚を海上筏(いかだ)の生簀網(いけすあみ)に移すこと。沖出し以降は、放流まで海中でマダイの稚魚を育てることになります。

 午前7時、初夏の日差しが照りつけ始めた朝、LOVE BLUE事業のマダイ稚魚放流活動に関する専門機関(公財)神奈川県栽培漁業協会では、沖出し作業が始まりました。スタッフは午前4時半には出勤し、慌ただしく準備が進められていました。一部のスタッフは不測の事態に備えるため、午前1時には出勤して準備を始めています。というのも、沖出し作業は室内水槽から海上の生簀までトラックとボートを使ってマダイの稚魚を運ぶため、まだカラダが小さいマダイの稚魚たちにとっては負担がとても大きいからなのです。万が一のトラブルにもすぐに対処できるよう、早朝に沖出しを行って、昼から午後、夕方にかけて、しっかりと観察を続ける必要があります。また、午前中は海も凪いでいることが多いため、海中に放ったマダイの稚魚たちを荒波の中でいきなり不安にさせることもありません。マダイの稚魚たちのことをなによりも最優先に考え、早朝にスタッフ全員が集合し、沖出しを行うのです。
水位を下げた室内水槽のなかにスタッフが入り、網を広げ、静かにゆっくりとマダイの稚魚を囲い込んでいきます。
囲い込んだマダイの稚魚をバケツですくい、移送用の容器に入れます。一つの容器に5万尾程度のマダイの稚魚が入ります。
 まず、あらかじめ水位を下げていた室内水槽に4人のスタッフが入り、マダイの稚魚を徐々に網で囲い込んでいきます。そしてバケツでそっとすくって、移動用の容器に入れます。ここで大事なことは酸素の供給。水槽内に酸素を供給しエアレーションをおこさせる器具と酸素ボンベの両方を使って、稚魚が入った容器に酸素を送り続けます。マダイ稚魚育成の現場リーダー 鈴木将幸主査が教えてくれました。
「カラダの小さな魚は大きな魚よりも、体面積あたりの酸素消費量が大きくなります。沖出しまでわずかな移動時間だからと甘くみて酸素供給を怠ると、あっという間にマダイの稚魚たちは死んでしまいます。海上の生簀網に稚魚たちを入れるまで、絶対に酸素不足にならないように気を配る必要があるのです」

 栽培協会から車で10分ぐらいの小網代湾に、マダイの稚魚を育成する海上筏の生簀網が設置されているのですが、室内水槽からトラックに乗せて運び、小網代で元気なマダイの稚魚の様子を確認するまでは気が抜けないと、鈴木さんは言います。
「カサゴやクロダイなどは多少、酸素が不足した状態でもすぐに元気を失うことはないのですが、マダイは違います。酸素不足に弱い魚で、少しでも酸素が足りないと、すぐに弱ってしまいます。だから小網代にトラックが着いて、容器の中のマダイの稚魚の様子を確認するときは、いつもドキドキしますね。容器のふたを開けて元気に泳いでいる姿を見ると、本当にホッとします」
マダイの稚魚を入れた容器を、小網代でトラックから移動用桟橋に乗せ代えます。この後、移動用桟橋を海上筏の生簀網までボートで牽引します。
トラックでの運搬中も酸素ボンベなどを使い、酸素供給をしっかりと行います。
 必要な酸素をしっかりと容器に送り込み、マダイの稚魚を乗せたトラックは無事に小網代に到着。もちろん、マダイの稚魚たちは元気でした。そして今年度はもう一つ、沖出し時に新たな工夫が行われました。
「1回あたり約20〜25万匹のマダイの稚魚を沖出しするのですが(計4回行う)、今年度は海上生簀まで運ぶための容器の数を5つにしました。昨年度は同程度のマダイの匹数を4つの容器に入れて運んでいましたから、今年度はひとつ増やしたわけです。なぜか...。それは容器内のマダイの密度を下げるためです。人間だってギューギュー詰めの満員電車には乗りたくないですよね。マダイだって一緒。容器を5つにしたことでマダイを分散して入れることができるので、密度が下がります。僕たちは少しでもマダイの稚魚たちのストレスを減らしてあげられるよう、できる工夫は惜しまないつもりです」(鈴木さん)

 容器の数をひとつ増やすことは、一見、些細な工夫のように思われるかもしれません。しかしマダイの稚魚たちは、成長途中で大きなストレスを感じたかどうかで、後々の育成に大きな影響が出てくることもあるのだとか。ただでさえ移動のストレスをマダイに与えてしまう沖出しにおいて、少しでもストレスを軽減させようと試みる姿勢に、専門機関ならではのマダイへの想いを感じました。
海上筏の生簀網に着くと、ホースを使って生簀の中にマダイの稚魚を入れていきます。今年度はマダイ移送用の容器(青色)を5つ、使用しました。
今年度のマダイは
魚のカタチが、特にキレイです!
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 沖出しされたマダイの稚魚たちは、生簀網の中で元気に泳ぎ回っていました。この日は天候に恵まれたこともあり、初夏の日差しを浴びたマダイたちはキラキラと輝き、とても気持ち良さそうです。ここから放流までは成長速度も上がり、1mm/1日程度で大きくなっていきます。沖出し時の体長は平均約22mm。7月半ばには60mmを超え、放流までのカウントダウンが始まります。

 無事に沖出しが終わると、エサの回数や量に注意が必要となります。1日に6〜7回のエサを与える必要があり、これを怠るといわゆる"共食い"が始まってしまいます。現場リーダーの鈴木さんは語ります。
「大きい生き物が小さい生き物をエサとして追いかけるのは、自然の摂理。マダイの稚魚だって、そうなんです。だからエサを十分に与えてあげないと、カラダの大きいマダイが小さいマダイを食べることだってある。そうならないように、エサの量と回数の調整が放流までのマダイ育成のポイントになりますね」
エサの量と回数の管理は、育成サブリーダーの小笠原さんが担当します。沖出し後、早速、マダイの稚魚たちに配合飼料を与えていました。
 生簀網を設置している小網代は周囲を緑に囲まれた自然豊かなところでもあるので、サギなどの鳥も多く、マダイの稚魚を食べに襲ってくることもあります。また、何らかの理由でイワシなどの魚が入り江に大量に入り込んで海中の酸素を消費してしまうこともあるそうです。そうなるとたちまちマダイの稚魚は酸素不足に陥ってしまいます。これから放流まで、育成スタッフはエサの回数や量だけではなく、生簀の周囲にも常に気を配る必要があるのです。
「小網代の周囲は自然豊かで、サギなどの鳥も多く存在します。生簀の上に網をかけてはいますが、サギがマダイの稚魚を狙うこともあるので注意が必要です」(鈴木さん)
 さて、前回のレポートで初期餌料についてご紹介しましたが、今年度は餌料に追加して与える栄養強化剤の種類や量を工夫したため、骨の作りや肉付きがよく、例年以上にカタチのキレイなマダイになっているそうです。今後のマダイたちの成長が、ますます楽しみです。

 次回もどうぞお楽しみに!

今年度の沖出しは、4つの室内水槽ごとに違うマダイの生育状況などを考慮し、6月3日(金)と6月7日(火)の2日間に分けて行われました。2日間で計4回(室内水槽4槽分、約100万尾)、マダイの稚魚の沖出しを行いました。4月に室内水槽に入れた受精卵は250万粒でしたが、育成過程において初期減耗などがあるため、数は減少しています。
次回をお楽しみに
2016.7.12
Vol.14 受精卵から元気な稚魚へ。 マダイの成長を大きく左右する初期餌料「ワムシ」培養
受精卵運搬から孵化を経て、約1ヶ月。この時期のマダイは環境に影響されやすいため、水温やエサの管理がとても重要です。そこで今回は、マダイの赤ちゃんの初期餌料である動物プランクトン「ワムシ」培養の様子をお届けします。
専門機関ならではの知識と経験が
マダイの育成を支えている
 4月18日(月)に静岡県温水利用研究センターより公益財団法人神奈川県栽培漁業協会に運搬したマダイの受精卵は、その日の夕方から翌朝にかけて、無事に孵化(ふか)しました。孵化から約5日後には口が開き(開口)、1週間後には胸びれもでき、あっという間にマダイらしくなりました。そこでLOVE BLUE取材班は、水槽内で元気に泳ぐマダイの赤ちゃんをレポートするため、5月中旬、協会を訪れました。マダイの赤ちゃんの体長は、取材日の計測で10mm前後。順調に、そして元気に育っています。マダイ育成に際し、この時期で大切なことは水槽の温度とエサの管理。特に初期餌料であるワムシに関しては質、量、頻度など、マダイの成長にあわせた培養が必要で、経験豊富なスタッフが、毎日、朝早くから作業にあたっています。
 マダイの赤ちゃんの初期餌料となるワムシは、動物プランクトンの一種で、海産魚種苗(しゅびょう)生産の初期餌料として不可欠な存在です。専門家の間では、ワムシ培養がうまくいかなければ種苗生産は成功しない、とまで言われています。マダイ稚魚育成の現場リーダー 鈴木将幸主査も、マダイの赤ちゃんを元気に育てるために、初期餌料であるワムシの培養にはとても神経を使うと言います。
「マダイの口が開いた後、初期餌料としてワムシを与えますが、毎朝、マダイの様子をチェックして、その日与えるワムシの量を決めていきます。マダイの成長スピードを予測しながら培養するワムシの量も決めていくのですが、ワムシのエサとなる濃縮淡水クロレラをどの程度与えて培養するか、ここを判断するのがなかなか難しいのです」
 ワムシも生き物ですから、エサである濃縮淡水クロレラが多すぎれば死んでしまうし、少なければ増えません。この塩梅(あんばい)を習得するには、かなりの経験を要します。ちなみに濃縮淡水クロレラは、ほぼ毎日メーカーから新鮮なものを取り寄せているそうです。
ワムシのエサとなる濃縮淡水クロレラ。ワムシの状態を見て適した量を決めるには、経験が必要です。
 現在、ワムシ培養はマダイ育成のサブリーダー、小笠原さんが行っています。毎日午前7時30分よりワムシの培養槽をチェックし、注水や給餌などを行います。協会では、6つの培養槽を使ってワムシを培養していますが、6つ全ての培養槽で同様に培養するのではなく、毎日一槽ずつワムシを種付けして、順々に収穫をしていく手法をとっています。種付けから6日後に収穫するため、毎日、違う培養槽で種付けと収穫をしているのです。
「今日は約8億個体のワムシを種付けしました。1日に約9回、エサとして濃縮淡水クロレラを与えます。6日後には約10倍、80億に増えるんですよ。培養槽の温度は29℃。この温度を保つようにしています。毎日、培養槽の水質をチェックしてワムシの状態を判断するのですが、これはやはり、経験が必要ですね」
小笠原さんは、毎日、培養槽の水質をチェックしてワムシの状態を判断。与えるエサの量を決めていきます。
ワムシの培養が順調に進んでいるかを顕微鏡で観察します。
良質なワムシを培養するための
さまざまな工夫
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 収穫したワムシは、そのままマダイの赤ちゃんに与えるのではなく、一度、補助槽に入れ栄養強化剤を加えます。マダイの赤ちゃんが元気に成長するために、ワムシだけでは足りない栄養素を付加するためです。そして数時間後、栄養強化されたワムシをエサとして、マダイの赤ちゃんにやっと与えることができるのです。このようにマダイの初期餌料であるワムシ培養には、とても手間がかかっています。培養の様子はあまり知られていませんが、専門機関ならではのスタッフの知識と経験が、この事業を支えているのです。
培養槽から収穫したワムシを補助槽(写真右)に入れ、栄養強化剤を加えます。
 現場リーダーの鈴木さんが、ワムシについてさらに詳しく教えてくれました。
「僕たち人間は健やかな成長のために肉だけ、野菜だけと偏らないように食べますよね。マダイも同じです。元気に成長するためには栄養の偏りは禁物。だからワムシに栄養強化剤を与えバランスの良いエサに仕上げるのです。与える栄養強化剤もタイプの違う2種類を使って、マダイたちの栄養が偏らないように工夫しています。それと良質なワムシを培養するには、培養槽を常に清潔な状態に保つことも大事です。ワムシだってキレイな場所の方がストレスなく過ごせますからね」
 やがて初期餌料はワムシからアルテミア、配合飼料へと移り変わり、マダイの体長が20mmを超えた頃、室内水槽から海上筏(いかだ)の生簀(いけす)網に移されることになります。次回のレポートはこの「沖出し」の様子をお届けします。どうぞ、お楽しみに!
次回をお楽しみに
2016.6. 2
Vol.13 平成28年度 元気に育て! マダイの赤ちゃん。 今年度も放流までのドラマが始まりました!
(写真提供:公益財団法人神奈川県栽培漁業協会)
今年度も「専門機関と連携したマダイの稚魚放流事業」が始まりました! 4年目の活動となります。昨年度も8月8日に、約20万匹の元気なマダイの稚魚を東京湾に無事放流。今年は専門機関担当スタッフの稚魚育成に対する情熱とこだわりを、より深堀してレポートしていきたいと思います。
マダイの受精卵管理は、
水温調整がカギとなる
 4月18日(月) LOVE BLUE事業の一つである専門機関と連携した、マダイの稚魚放流をお願いしている公益財団法人神奈川県栽培漁業協会から、早朝4時に運搬車両が出発。目指したのは、静岡県御前崎市にある温水利用研究センター。この日、マダイの受精卵を受け取りに向かったのです。マダイは春先の夕方以降に産卵します。栽培漁業協会では数日前から受精卵受け入れの準備を開始。17日夕方の産卵報告を受け、翌18日早朝にはスタッフが温水利用研究センターに向かったというわけです。
 9時30分、栽培漁業協会の運搬車両が温水利用研究センターに到着。約100万粒の受精卵を受け取り、13時を回ったころには戻ってきました。すると休む間もなく、栽培漁業協会スタッフ総出で受精卵を室内水槽に移し替える作業が始まりました。
温水利用研究センターより受け取った受精卵を運搬車両から運び出し、施設内の水槽の水を入れたポリカーボネート製の小型水槽内に袋ごと沈めます。水槽に入れる前に、受精卵の温度と水槽の水温とを同じにするためです。写真右は、温度計で水温を確認している様子。
 大きなビニール袋に酸素と水と一緒に封入されていた受精卵を、まず、小型水槽に袋ごと入れ水温調整。待つこと約30分。その後、小型水槽内の水をそっと手でかき回し、遠心力で死卵などの不健全な卵を除去します。それから施設内の水槽に受精卵を入れることになります。
小型水槽内を手でそっとかき回すと死卵などは、下に溜まります。それを吸い出してから、受精卵を施設内の水槽に入れていきます。
チームで取り組む、
マダイの栽培漁業
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 作業としては毎年同じ行程ですが、それでも決して気は抜けないと、マダイ稚魚育成の現場リーダー、鈴木将幸主査が話してくれました。
「受精卵の運搬で大事なことは、水温を保つこと。運搬中はどうしても水温が上がっていくので、運搬車両の中は冷房を効かせています。まだ季節的に冷房はちょっと寒いのですが、マダイの受精卵がいい状態を保つためには、絶対に必要なことなんですよ!」
 今年度は温水利用研究センターを水温約17℃で出発。しかし、栽培漁業協会に到着直後に水温を計ってみると19℃に上がっていました。そこで施設内の水槽に入れる前に、適温である17℃まで下げるよう温度調整しました。
「僕たちの仕事は生き物が相手。わずか1〜2℃の水温の違いも甘くみてはいけない。その後の育成に大きな影響が出ますから。栽培漁業は1人ではできない仕事です。チームで力を合わせて、今年度も放流まで育てていきます!」
小型水槽内の受精卵を施設の水槽に入れていきます。
 さて、受精卵が孵化(ふか)するのは、産卵から何時間後でしょうか?
この質問、昨年度の第2回目のレポートでもしましたが、さて皆さん、覚えていますか? 答えは・・・、20〜30時間後。つまり、運搬日前日の夕方以降に産卵があったわけですから、栽培漁業協会の水槽に入れてから数時間後、運搬日の夕方には孵化(ふか)が始まったということです。かわいいマダイの赤ちゃんの成長の様子は、次回のレポートで紹介します。また次回の取材では、マダイの大事な初期餌料であるワムシについて、鈴木さんたち育成スタッフの皆さんに教えていただく予定です。今年度のレポートは、マダイの育成から放流までの作業行程紹介だけでなく、その行程を細部にわたり昨年度以上に掘り下げて取材。育成担当スタッフのマダイ育成に対する情熱をお伝えしたいと思っています。育成に関するマニアックな部分を神奈川県栽培漁業協会の皆さんに、突っ込んで取材していきますので、どうぞ、お楽しみ!

4月18日に静岡県温水利用研究センターより運搬した受精卵は100万粒でしたが、翌日、150万粒の受精卵を再度運搬し、栽培漁業協会の水槽に無事、入れることが出来ました。平成28年度 神奈川県栽培漁業協会は計250万粒の受精卵からマダイの稚魚を育成していき、このうち約20万尾がLOVE BLUE事業分となります。
次回をお楽しみに
2016.2.12
Vol.12 平成27年度 マダイ稚魚放流活動を振り返って・・・
平成27年度 マダイ稚魚放流活動を振り返って・・・
つり環境ビジョンにおける今年度のマダイ稚魚放流活動は、孵化、育成、放流、そして放流効果測定まで、無事終了いたしました。そこで放流活動の委託先として協力をいただいた(公財)神奈川県栽培漁業協会 今井専務理事に、一年間を振り返った感想などをうかがいました。
専門機関と連携した放流事業(LOVE BLUEをスローガンに進められています)
<平成28年度 放流活動行程>
受精卵調達 4月20日
室内水槽から中間育成海上筏に沖出し 6月4日
計量、及び鼻腔隔壁全数調査 7月24日
放流 8月8日
放流尾数 20万尾
放流場所 東京湾(金沢沖合・久里浜沖合・松輪沖合)
――― 4月20日に静岡県の温水利用センターからマダイの受精卵が神奈川県栽培漁業協会に到着。その後、孵化、育成、放流と続き、つり環境ビジョンとしては、東京湾の金沢、久里浜、松輪の沖合に計20万匹のマダイの稚魚を放流いたしました。今年度を振り返ってみて「マダイの稚魚放流活動」に関してどのような感想をお持ちですか?

今井:つり環境ビジョンから委託されたマダイの稚魚放流活動は、今年度で3年目を迎えました。孵化、育成、放流という行程は毎年変わりませんが、その年それぞれにドラマはあります。病気にならずに無事に育ってくれるかどうかを、育成中は常に考えていますし、水槽から海上生簀網に沖出ししてからの育成ではイワシやフグなどに生簀網を囲まれ酸欠状態になることがないか、サギなどの鳥が襲ってきて食べられないかなど、ハラハラドキドキな気持ちは、毎年同じですね。今年度のマダイの稚魚たちは無事に成長することができたので、ホッとしています。
今井専務理事。「栽培漁業は生き物を扱う仕事なので、一瞬も気が抜けない」とか。右写真は、放流前のマダイの稚魚の様子。今年度はすくすくと無事に成長しました。
――― すべての行程の中で印象深いのは、やはり放流でしょうか?

今井:そうですね。今年度の放流は毎年放流に協力いただく活漁運搬船の到着が遅れ、放流予定日が2週間以上、大幅にずれてしまいました。かなり気をもみましたが、結果的には素晴らしい活漁運搬船とスタッフに恵まれ、当日はとてもスムースな放流をすることができました。マダイの稚魚たちは元気に大海原に泳いでいきましたよ。あの放流の瞬間はうれしかったですね。委託していただいたつり環境ビジョンの放流分20万匹も無事、計画通り、海に放流でき、ホッとして肩の荷が下りました(笑)。
放流時の活魚運搬船の様子。8月8日、つり環境ビジョンが委託したマダイ稚魚20万匹は、無事に計画通り、東京湾に放流されました。(右写真提供:神奈川県栽培漁業協会)
――― 放流効果測定としておこなった市場と遊漁船での調査では、2〜3年前に放流したと思われるマダイを見つけることができました。

今井:つり環境ビジョンの放流事業としては初年度にあたる2013年に放流したマダイの稚魚も今年度はやっと成魚になった頃です。漁獲されたり釣り上げられたりし始めたと思いますよ。

――― 放流効果測定というカタチで、放流事業の効果を確認できるということは大事ですね。

今井:神奈川県栽培漁業協会では放流後に放流効果測定調査をおこなうことにしていますが、全国各地にある栽培漁業協会のなかでは珍しいと思います。特に遊漁船での調査データは他ではほとんどありません。私たちも各釣り船店に協力をいただき、調査を実現しています。
神奈川県栽培漁業協会では「マダイ等漁獲状況調査票」を各釣り船店に配り、釣り人が釣り上げたマダイの中から放流魚と思われる匹数を記載してもらっています。右は、今年度、市場調査で協力いただいた横浜市漁業協同組合柴漁港での放流効果測定の様子。
――― マダイは釣り人にとっても人気の魚種ですし、稚魚の放流はとても大事な活動と言えますね。ところで今井さんは、天然とも養殖とも違う"栽培漁業"というものを、どう位置づけていらっしゃいますか?

今井:栽培漁業というのは、言わば「里山」のようなものだと思うのです。里山とは、大自然と都市との中間に位置する空間。人里に隣接していて人間の影響を受けた生態系が存在し、暮らしに必要な恵みをもたらしてくれます。日本は経済成長の過程で、徐々に環境問題が注目されるようになりました。水辺の環境に関しても稚魚が育つ浅場が少なくなり、水産資源量にも大きく影響を及ぼしていると言われています。しかし経済成長をしていくためには、大自然そのままに暮らし続けることはできない。だから人間が少しだけ自然に関与することで、より良い自然との共存が実現できるのではないかと思うのです。そういう意味で、受精卵を孵化させ、育成し、稚魚を大海原に放流し自然に帰す栽培漁業は、現代社会の「里山」的存在にあたると考えています。

――― なるほど。稚魚に育てるまでは人間が関与するとしても、大海原に放流されたあと、マダイたちがさまざまな試練を乗り越えて成魚になる過程は自然の営みそのものですよね。つり環境ビジョンのホームページ「LOVE BLUE」でも、"持続可能な自然環境の構築こそ目指すべき未来である"と謳っています。継続してマダイ放流をおこなうことで、海の豊かな恵みを維持することに繋がるとしたら、とてもうれしいことですね。

今井:成魚になって漁獲されたり釣り上げられたりして、再び私たちのもとに戻ってくることを考えると、やっぱりうれしいですよね。
放流効果測定で協力いただいた遊漁船での様子。釣り人たちが釣り上げたマダイの中には、放流魚と思われるマダイも含まれていました。
――― さて、来年度はつり環境ビジョンとして4年目の放流活動に入ります。来年度に向けた抱負をお聞かせください。

今井:先ほどもお話ししたように、孵化、育成、放流と、毎年同じことをしているようで、その年ごとに違うドラマがあるものです。来年度もマダイの稚魚たちが無事に成長することを第一に、放流事業をおこないたいと思います。

――― ありがとうございました。来年度もどうぞよろしくお願いいたします!

来年度のマダイ稚魚放流活動は4月から始まります。稚魚たちの放流までの新たなドラマをレポートしていきます。どうぞお楽しみに!
次回をお楽しみに