平成27年度 マダイ稚魚放流活動を振り返って・・・
つり環境ビジョンにおける今年度のマダイ稚魚放流活動は、孵化、育成、放流、そして放流効果測定まで、無事終了いたしました。そこで放流活動の委託先として協力をいただいた(公財)神奈川県栽培漁業協会 今井専務理事に、一年間を振り返った感想などをうかがいました。
専門機関と連携した放流事業(LOVE BLUEをスローガンに進められています)
<平成28年度 放流活動行程>
受精卵調達 4月20日
室内水槽から中間育成海上筏に沖出し 6月4日
計量、及び鼻腔隔壁全数調査 7月24日
放流 8月8日
放流尾数 20万尾
放流場所 東京湾(金沢沖合・久里浜沖合・松輪沖合)
――― 4月20日に静岡県の温水利用センターからマダイの受精卵が神奈川県栽培漁業協会に到着。その後、孵化、育成、放流と続き、つり環境ビジョンとしては、東京湾の金沢、久里浜、松輪の沖合に計20万匹のマダイの稚魚を放流いたしました。今年度を振り返ってみて「マダイの稚魚放流活動」に関してどのような感想をお持ちですか?

今井:つり環境ビジョンから委託されたマダイの稚魚放流活動は、今年度で3年目を迎えました。孵化、育成、放流という行程は毎年変わりませんが、その年それぞれにドラマはあります。病気にならずに無事に育ってくれるかどうかを、育成中は常に考えていますし、水槽から海上生簀網に沖出ししてからの育成ではイワシやフグなどに生簀網を囲まれ酸欠状態になることがないか、サギなどの鳥が襲ってきて食べられないかなど、ハラハラドキドキな気持ちは、毎年同じですね。今年度のマダイの稚魚たちは無事に成長することができたので、ホッとしています。
今井専務理事。「栽培漁業は生き物を扱う仕事なので、一瞬も気が抜けない」とか。右写真は、放流前のマダイの稚魚の様子。今年度はすくすくと無事に成長しました。
――― すべての行程の中で印象深いのは、やはり放流でしょうか?

今井:そうですね。今年度の放流は毎年放流に協力いただく活漁運搬船の到着が遅れ、放流予定日が2週間以上、大幅にずれてしまいました。かなり気をもみましたが、結果的には素晴らしい活漁運搬船とスタッフに恵まれ、当日はとてもスムースな放流をすることができました。マダイの稚魚たちは元気に大海原に泳いでいきましたよ。あの放流の瞬間はうれしかったですね。委託していただいたつり環境ビジョンの放流分20万匹も無事、計画通り、海に放流でき、ホッとして肩の荷が下りました(笑)。
放流時の活魚運搬船の様子。8月8日、つり環境ビジョンが委託したマダイ稚魚20万匹は、無事に計画通り、東京湾に放流されました。(右写真提供:神奈川県栽培漁業協会)
――― 放流効果測定としておこなった市場と遊漁船での調査では、2〜3年前に放流したと思われるマダイを見つけることができました。

今井:つり環境ビジョンの放流事業としては初年度にあたる2013年に放流したマダイの稚魚も今年度はやっと成魚になった頃です。漁獲されたり釣り上げられたりし始めたと思いますよ。

――― 放流効果測定というカタチで、放流事業の効果を確認できるということは大事ですね。

今井:神奈川県栽培漁業協会では放流後に放流効果測定調査をおこなうことにしていますが、全国各地にある栽培漁業協会のなかでは珍しいと思います。特に遊漁船での調査データは他ではほとんどありません。私たちも各釣り船店に協力をいただき、調査を実現しています。
神奈川県栽培漁業協会では「マダイ等漁獲状況調査票」を各釣り船店に配り、釣り人が釣り上げたマダイの中から放流魚と思われる匹数を記載してもらっています。右は、今年度、市場調査で協力いただいた横浜市漁業協同組合柴漁港での放流効果測定の様子。
――― マダイは釣り人にとっても人気の魚種ですし、稚魚の放流はとても大事な活動と言えますね。ところで今井さんは、天然とも養殖とも違う"栽培漁業"というものを、どう位置づけていらっしゃいますか?

今井:栽培漁業というのは、言わば「里山」のようなものだと思うのです。里山とは、大自然と都市との中間に位置する空間。人里に隣接していて人間の影響を受けた生態系が存在し、暮らしに必要な恵みをもたらしてくれます。日本は経済成長の過程で、徐々に環境問題が注目されるようになりました。水辺の環境に関しても稚魚が育つ浅場が少なくなり、水産資源量にも大きく影響を及ぼしていると言われています。しかし経済成長をしていくためには、大自然そのままに暮らし続けることはできない。だから人間が少しだけ自然に関与することで、より良い自然との共存が実現できるのではないかと思うのです。そういう意味で、受精卵を孵化させ、育成し、稚魚を大海原に放流し自然に帰す栽培漁業は、現代社会の「里山」的存在にあたると考えています。

――― なるほど。稚魚に育てるまでは人間が関与するとしても、大海原に放流されたあと、マダイたちがさまざまな試練を乗り越えて成魚になる過程は自然の営みそのものですよね。つり環境ビジョンのホームページ「LOVE BLUE」でも、"持続可能な自然環境の構築こそ目指すべき未来である"と謳っています。継続してマダイ放流をおこなうことで、海の豊かな恵みを維持することに繋がるとしたら、とてもうれしいことですね。

今井:成魚になって漁獲されたり釣り上げられたりして、再び私たちのもとに戻ってくることを考えると、やっぱりうれしいですよね。
放流効果測定で協力いただいた遊漁船での様子。釣り人たちが釣り上げたマダイの中には、放流魚と思われるマダイも含まれていました。
――― さて、来年度はつり環境ビジョンとして4年目の放流活動に入ります。来年度に向けた抱負をお聞かせください。

今井:先ほどもお話ししたように、孵化、育成、放流と、毎年同じことをしているようで、その年ごとに違うドラマがあるものです。来年度もマダイの稚魚たちが無事に成長することを第一に、放流事業をおこないたいと思います。

――― ありがとうございました。来年度もどうぞよろしくお願いいたします!

来年度のマダイ稚魚放流活動は4月から始まります。稚魚たちの放流までの新たなドラマをレポートしていきます。どうぞお楽しみに!
次回をお楽しみに
放流効果を実感する その②
 漁港での調査に引き続き、今回は、遊漁船での効果測定調査です。神奈川県久里浜港の釣り船店「ムツ六」様にご協力をいただき、マダイの釣り船(遊漁船)に乗船させていただきました。東京湾でのマダイ釣りは、ファンが多い人気の釣り。取材当日も、久里浜港から約10隻の遊漁船がマダイ釣りに出航しました。
 早朝5時。久里浜港に釣り人が続々集まり始めます。暖冬の影響で、温かい日が続いているとはいえ、季節は冬。冷たい空気が張りつめるなか、マダイの釣果を期待する釣り人たちは、お気に入りの釣り座を取るために早朝より集まり、準備に余念がありません。そして朝7時出航。取材日は快晴。約10隻の釣り船が一斉に沖合に向かいます。
釣りは準備をしている時が一番楽しい・・・という釣り人も。釣り人たちは釣果を期待しつつ、仕掛けや氷の準備など、出航まで慌ただしい時間が過ぎていきます。
朝7時の出航の様子。10隻の遊漁船が一斉に沖合に向かいます。いよいよマダイ釣りが始まります。
 つり環境ビジョンの「マダイ放流事業」は、この3年間、東京湾内の金沢、久里浜、松輪の沖合3カ所で全20万匹を放流しています。久里浜沖はまさに放流地域なので、今回、放流魚がどれくらい釣り上げられるか期待が高まります。放流効果測定取材に同行してくださった神奈川県栽培漁業協会の今井専務理事によると、「遊漁船での放流効果測定の場合、通常、全釣果の3割程度が放流魚」なのだとか。
釣り人はそれぞれ釣りの体制を整えます。朝ごはんのおにぎりを頬張りながら、仕掛けの動きに目を凝らします。
 出航からしばらくはなかなか釣果が上がらずにいましたが、1時間半が過ぎて、マダイが釣れ始めました。朝3時起きでマダイ釣りに来た男性は、この日が今年4回目のマダイ釣りとか。1回目と2回目はボウズ(0尾)、3回目は11尾、そして4回目の今回も大きな釣果を期待しているようでした。 「マダイはラインの引きが上品! 強引にグイグイ引っ張るのではなく、クイックイッと、引いてくる。それがいいんだよ」。程なくして釣り上げたマダイは20cm程度。放流魚に多く見られる「鼻孔隔壁欠損」があるか確認させていただくと、放流魚のようでした。「おそらく放流してから約3年目のマダイだと思いますよ」と今井さん。

 「天然マダイと放流マダイの違いをどうやって見分けるかは、よく知らなかった。でも、東京湾でマダイを放流していることは知っているよ。放流しているから、東京湾はマダイがよく釣れる。放流マダイは大海を泳いでいるから、肉質がしっかりして美味しいよ。養殖マダイとは味が違うね。今日は丸ごと釜に入れて鯛飯を作るよ」

 取材を通して、放流マダイにも興味を持っていただいたようで、とてもうれしく感じました。
遊漁船の後方に陣取り、数匹のマダイを釣り上げた男性は、放流マダイに興味をもってくださいました。取材協力、ありがとうございました!
 マダイ釣りは、この日で今年12回目になるという男性も、天然マダイと放流マダイの違いをあまり意識したことはないとか。 「釣り人はあまり意識したことがないんじゃないかな。天然も放流も、変わらないよ。どちらでも、やっぱりたくさん釣れるとうれしいしね。20〜30cm前後のマダイは、一夜干しにしたら美味しいよ」
潮の流れをつかんで、次々とマダイを釣り上げた男性は、今年12回もマダイ釣りに来ているのだとか。釣ったマダイを計測すると20〜30cm前後のサイズが多かったこともあり、次はもっと大物を釣りたいと意気込んでいました。
 午後3時頃までの乗船で、取材させていただいた遊漁船全体の釣果は11尾。内訳は、天然マダイが3尾、放流マダイが9尾という結果でした。今井さん曰く「今日はかなり、放流マダイが釣れていますね」とのこと。また、釣れた放流マダイのサイズが20〜30cm前後のものが一番多く、これは放流から2〜3年目のマダイにあたるそうです。つり環境ビジョンがマダイの放流事業を始めたのが、まさに3年前。つまり放流したマダイたちが育ったことで、今年、放流事業の効果が目に見えて出始めたと言えます。この事業が釣り人たちに役だっているという事実。これは本当にうれしい結果でした。
マダイが釣れた人たちはやっぱり嬉しそう。50cmを超える大物を釣り上げた人もいました。
 今年度、夏に放流したマダイの稚魚20万匹も、2〜3年後には大きく育ち、漁獲されたり、遊漁船で釣り上げられたりすると思われます。サカナ資源を守り、育てていくことは「環境保全」という観点で、とても大事なことです。地道な放流活動ではありますが、続けていくことに意義があるのです。
 
今回の遊漁船での効果測定取材にご協力をいただいた久里浜港の「ムツ六釣船店」の代表、榎本さん。「天然マダイもいいけど、放流マダイがあるから、東京湾がマダイの豊かな漁場となり、釣りも盛り上がる。だから放流事業って、大事だと思いますよ」。
 柴漁港での水揚げの様子と久里浜沖での遊漁船で釣りの様子、2回の効果測定を経て、マダイ放流事業の効果をしっかり実感することができました。次回のレポートでは、今年度の「マダイの放流事業」を振り返って総括してみたいと思います。どうぞ、お楽しみに!
次回をお楽しみに
放流効果を実感する その①
つり環境ビジョンとして東京湾へのマダイ放流事業を神奈川県栽培漁業協会に委託することを始めて、今期で3年目。2年前に初めて東京湾に放流したマダイの稚魚たちが、今年、いよいよ成魚の大きさになり、漁や遊漁船で釣り上げられるようになりました。そこで今回、放流事業の効果を実感するため、横浜市漁業協同組合 柴支所(柴漁港)に向かいました。
 前回までのレポートでお伝えした通り、つり環境ビジョン「マダイ放流事業」として今年4月から大事に育ててきたマダイの稚魚20万匹は、8月初旬、東京湾に無事、放流されました。まだ70〜80mm程度の小さなマダイたちでしたが、今頃は、東京湾を悠々と泳ぎ、自然のなかでたくましく成長していることでしょう。

 つり環境ビジョンの「マダイ放流事業」は、今期で3年目。毎年20万匹を東京湾に放流してきましたが、いよいよ今年、その放流効果を実感できるようになりました。2年前に放流したマダイの稚魚が、現在、推定30cm前後。漁や遊漁船に釣り上げられる大きさとなったのです。その放流効果をこの目で確認するため、柴漁港にて水揚げされたマダイの中に放流マダイがどの程度の割合で水揚げされるかを見に行くことになりました。
柴漁港は、放流効果の測定調査にとても協力的な漁港で、つり環境ビジョンが放流事業を委託している神奈川県栽培漁業協会とは、数十年来のお付き合いがあるそうです。放流によって水産資源が増えることを理解し、応援してくださっています。
 柴漁港は、京浜急行電鉄の金沢八景駅に程近い漁港です。70艘以上の漁船が停泊する漁港で、底引き網漁が有名。以前はシャコ漁が盛んでしたが、現在は、穴子筒漁による穴子や、タチウオ、甲イカ、ヒラメ、タイなどの漁獲が増えているそうです。つり環境ビジョンの「マダイ放流事業」は、毎年、東京湾内の金沢、久里浜、松輪の沖合3カ所で全20万匹を放流していますが、そのうちの半分、約10万匹を金沢沖合で放流しています。そのため、金沢沖合に近い柴漁港は、放流効果測定をおこなう市場として最適なのです。
多くの漁船が停泊する柴漁港。取材当日は、タチウオがたくさん水揚げされていました。威勢の良いかけ声とともに手際よく仕分けされていきます。
 取材当日、漁港にうかがうと、早朝に港を出発した漁船が、次々と帰港してきたところでした。底引き網漁のため、魚種はさまざま。漁船からたくさんの活魚が市場に集まり、計量や分別が始まりました。もちろん、マダイの姿もあります。計量や分別が終わったマダイは、同じ水槽に集められます。そしてここで、放流効果測定が行われるのです。

 放流効果測定を行うのは、神奈川県水産技術センターの櫻井繁さん。測定方法は、放流魚に多く見られる「鼻孔隔壁欠損」を確認することです。鼻孔隔壁欠損とは通常2つある鼻孔がひとつに繋がってしまうこと。詳細に関しては、レポートのVol.8でお伝えした通りです。
神奈川県水産技術センターの櫻井さんは、水揚げされたマダイを素早く、計測していきます。鼻孔隔壁だけでなく、胸びれや背びれなどの形状もチェックし、放流マダイかどうかを推定していきます。
 櫻井さんはまず、水槽に運ばれてきたマダイの計測を始めました。頭の先から尾びれの叉部分(尾叉長)までを計ります。水揚げされたマダイは20〜30cmほどのものが多く、まさに2〜3年もののマダイです。大きさの計測が終わると、すばやく鼻孔のチェックを行います。2つあれば天然マダイ。1つになっていれば、放流マダイの可能性が高くなります。もちろん放流マダイでも鼻孔が2つある場合もあるので、鼻孔隔壁欠損のマダイの数が、そのまま放流マダイの数を表しているわけではありませんが、ある一定の目安にはなるわけです。
計測用紙を見ると、水揚げされたマダイは、やはり20〜30cm程度の大きさに集中しています。つり環境ビジョンが2年前に放流したマダイたちも、きっと含まれているはずです!
 この日、柴漁港に水揚げされたマダイは約20匹前後。そのうち、鼻孔隔壁欠損が確認されたのは、4〜5匹でした。神奈川県水産技術センターによると、調査地域で1年間に水揚げされるマダイのうち、約30%が放流魚だと推定されるのだとか。

 つり環境ビジョンとして、2年前に東京湾に放流した20万匹が、放流場所である沖合のマダイ年間水揚げ量の約30%を担っているとしたら、それはとても嬉しいことです。放流した稚魚が多く生き残り、マダイ資源の漁獲量が増加すれば、漁業関係者だけでなく、魚の小売りや流通業への経済効果も期待できます。
この日、柴漁港に水揚げされたマダイの中に、手のひらに乗る程度の、まだ10cmほどの小さなマダイを発見! 鼻孔隔壁欠損の様子から、おそらく今年放流したマダイだと推測されます。
 さて、マダイの放流効果測定には、もうひとつ、大事な調査方法があります。遊漁船に協力をいただく調査です。東京湾のマダイ釣りは、ファンが多い人気の釣り。きっとたくさんの釣り人が、放流後に東京湾で生き残り、立派な成魚となったマダイを釣り上げていることでしょう。とはいえ、個々人で釣り上げているマダイを、すべて確認することは出来ません。そこで、神奈川県栽培漁業協会では、一部の遊漁船関係者に協力をいただき、遊漁船を利用した釣り人によるマダイ漁獲尾数と鼻孔隔壁欠損の有無を記録してもらい、放流効果を推定する方法をとっています。

 遊漁船での放流効果測定に関しては、次回のレポートでお伝えします。
次回をお楽しみに
Vol.9 放流活動も今年で3年目! 大海原にマダイ稚魚、放流!
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台風などの影響もあり、今年の放流は、例年より遅れてしまいましたが、8月8日(土)早朝よりマダイの稚魚放流が行われました。4月から約3ヶ月間、大事に育ててきたマダイの赤ちゃんたちは、元気いっぱいで大海原に泳いでいきました!
 午前3:00、小網代に集合。
神奈川県栽培漁業協会とLOVE BLUE取材班をあわせて、総勢15人ほどのスタッフが小網代湾岸に集まり、ボートで海上生簀に向かいました。夏とはいえ、まだ夜も明けきらぬ時間。あたりは真っ暗です。海上生簀に着くとスタッフは放流のための準備を開始。まず、生簀にかぶせていた防鳥ネットを丁寧に外していきます。体長は推定平均約78mm。かなり大きくなっているため、ピチピチと威勢のいい音を立てて、生簀内を泳いでいました。
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放流前日のマダイ稚魚の様子。放流日が予定よりも遅れたこともあり、平均約78mmまで成長。かなり大きくなっていました。
 今年は例年に比べ、放流日が遅くなったため、スタッフ一同、まさに待ちに待った放流。朝早い時間であるにもかかわらず、全員がテキパキと手際良く、作業を行っていきます。この時点での作業とは、放流のためにマダイの稚魚を積み込む活魚運搬船を迎える準備。網などが船に絡まらないように、海上生簀周りをキレイにしていくのです。  

 ところで、なぜ活魚運搬船が必要なのか...。放流というと、子供たちが海岸でバケツから稚魚を放流するほのぼのとした様子を思い描く人多いと思いますが、専門機関との連携による、この事業の放流の場合は、何十万匹という稚魚を一日に広い海域の測地された地点へ放流しなければならないので、「バケツで海へ...」というわけにはいかず、大きな船に積み込んで放流しなくてはなりません。そのためには、生きた稚魚を安全に運ぶことが出来る活魚運搬船が最適、というわけです。

 午前4:00過ぎ、活魚運搬船登場。 午前4時をまわった頃、漆黒の中から、大きな船がゆっくり海上生簀に向かってくる様子が見え始めました。第38住宝丸。400トンの大きな活魚運搬船です。暗闇の中から近づいてくる船は、最初は幻想的にも見えましたが、近づいてくるとその迫力にビックリ! 毎年作業を進めている栽培漁業協会のスタッフも思わず「デカいなぁ〜〜」と、圧倒された様子で船を出迎えていました。
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遠くからゆっくりと活魚運搬船が登場! 愛媛県宇和島港所属の第38住宝丸です。愛媛県から神奈川県三崎港まで活魚を運び、その帰りに、マダイの稚魚放流をおこなってくれるのです。(写真提供:神奈川県栽培漁業協会)
 午前4:30、マダイの積み込みスタート。
やっと白々と夜が明けてきました。活魚運搬船に設置された2機のクレーンの先には水ダモが付いていて、海上生簀のマダイたちを海水ごと次々にすくい取っていきます。海上生簀ではスタッフが網を徐々に端に寄せてマダイを集め、1匹も残らないように水ダモに入れていきます。この作業を何度も繰り返し、活魚運搬船の船上生簀にマダイを積み込んでいくのです。活魚運搬船には12個の生簀があり、放流する場所ごとにマダイを入れる生簀を事前に決めていたため、積み込み作業は思っていた以上にスムース! 活魚船スタッフとの連携も良く、スタートから1時間もかからず、午前5時15分頃には、70万匹以上のマダイ稚魚の積み込みは終了。あっという間の作業でした。
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クレーンで水ダモを吊り上げ、海上生簀から活魚運搬船の生簀に海水ごとマダイの稚魚を移していきます。(一部写真提供:神奈川県栽培漁業協会)
 午前5:22、小網代出航。
いよいよ出航。積み込み作業のスタッフと別れを告げて、活魚運搬船は数名のスタッフとともに、放流のため沖に向かいます。この日は東京湾と相模湾内の数カ所で放流を行う予定でしたが、つり環境ビジョンが委託したマダイの稚魚放流20万匹は、金沢、久里浜、松輪の3地区沖合で行われました。
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★印が、つり環境ビジョンが委託したマダイの稚魚放流の場所です。
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小網代より出航。放流のため、東京湾、そして相模湾に向かいます。
 午前7:30、金沢沖合にて5万匹放流。
活魚運搬船は特殊な構造で、船の側面が開き、船上生簀から海水ごと魚が海に出ることが出来る仕組みになっています。まず、金沢沖合放流用の船上生簀に幕をかぶせ、生簀内を暗くします。そして船側面のベンを開くと、マダイの稚魚は一気に海に出ていきます。これは魚が暗いところから明るいところに向かう習性を利用したものです。このとき、細かい泡を噴出させて、稚魚を残りなく海に放流します。それでも生簀内に残ってしまった稚魚は、水ダモですくって、海に放流します。

 大切に育てた稚魚たちが大海原に消えていく様子は、なんだか切なくもありますが、マダイたちには、これからたくさんの自然界の試練を乗り越えて、大きく育っていって欲しいものです。

マダイの稚魚たちよ、元気に大きくなれよぉ~~! 
またいつか、会おうね~~~!
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生簀に幕をかぶせ暗くし、船の側面を空け、放流。生簀内に残っているマダイの稚魚を泡で追い出し、さらに1匹残らず、水ダモですくって放流します。(一部写真提供:神奈川県栽培漁業協会)
 午前8:30、久里浜沖合にて、10万匹放流。
 午前9:00、松輪沖合にて、5万匹放流。
その後、江ノ島、茅ヶ崎、真鶴などをまわり、残りの放流を終え、午後3時に小田原港にて下船。無事、この日のマダイ稚魚放流が終了しました。
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第38住宝丸の皆さん。手際良く、放流をサポートしてくださいました。
 4月から約3ヶ月。受精卵から孵化させ、水槽で大事に稚魚に育て、海上生簀に沖出し、計測、そして放流。思い返すと、あっという間の時間でした。しかし、これで終わりではないのです。2~3年後、今年放流したマダイの稚魚たちが成魚になり釣り上げられ、または漁獲され、初めて"放流効果"があったといえるのです。これが、つり環境ビジョンの放流活動の意義です。次回以降のレポートでは、この「放流効果」というものについて、考えていこうと思います。

次回もどうぞ、お楽しみに!
Vol.8 平均体長66.73mm。計量・測定終了で放流準備OK!
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放流前の大事な作業。それは計量と測定です。マダイの総数、放流に適しているサイズかどうか、また、良好な健康状態かどうかなどを確認します。そこで7月下旬、放流を目前に、マダイの稚魚たちの計量と測定が行われました。
 7月後半の関東地方は連日、天候に恵まれ、海上生簀のマダイたちはかなり大きく成長していました。マダイは平均体長が60mmを超えると放流に適したサイズと判断され、いよいよ海に放たれる準備にかかります。7月24日(金)午前9時、7人のスタッフにより海上生簀で計量がスタートしました!

 現在11面の生簀で飼育しているマダイですが、計量を行うのは1面分だけです。1面分の尾数×11面の計算で、海上生簀で飼育しているマダイの総数を算出するのです。受精卵の数とその後の生残率から、すでに推定総数は割り出していますが、今回の計量で、より実際の数に近いマダイの総数を計量することが出来るそうです。

 ちなみに、なぜ11面すべてを計量せず、1面だけの計量で総数を計量することにしているのでしょうか? その深い理由を、マダイの飼育担当リーダー、鈴木さんが答えてくれました。
「計量の際にタモでマダイをすくうわけですが、大量のマダイを一緒にすくい上げることになるため、目を突いてしまったり、ヒレが傷ついたり、体が潰れたりと、マダイの稚魚がダメージをうける可能性があります。それはできるだけ避けたい! 元気なままで放流したいですからね。そのため、11面すべてを計量するのではなく、1面のみの計量で総数を計量するようにしているのです。このとき、実数より多く見積もることが無いように、平均量〜やや少なめの尾数がいる生簀網を選び、計量するように心がけています」
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計測のため、網を片側に寄せます。マダイたちは元気いっぱいに網の中を泳いでいます。
 作業の流れとしてはまず、計量用の1面を選び、網の片側を持ち上げて稚魚を片方に寄せます。樽に水を入れ、その重さを計量。続いて、稚魚をタモですくって樽に入れ再度計量。このとき、先ほどの水の量をこの重さから引いて、稚魚の重さを計ります。計り終えた稚魚は隣の網に入れます。この作業を繰り返し、生簀網1面分を計量します。1面分の稚魚の総重量が分かったら、あらかじめ測定しておいた稚魚1匹分の重さで割って、だいたいの総数を算出する、というわけです。

 今年のマダイ飼育は、最終的に海上生簀全体で約94万匹という算出結果でした。特に大きな病気もなく、飼育も順調で、マダイの赤ちゃんたちは、すくすく大きく育っています。
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タモでマダイをすくって、樽に入れます。樽の中にあらかじめ入れていた水の重さを引いてマダイのみの重さを計測します。
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つり環境ビジョンが依頼している放流分(20万匹)も確認しました。
(事業主体は(一社)日本釣用品工業会と表記)
 海上生簀での計量作業を終え、栽培漁業協会に戻ると、次はマダイの測定を行います。サンプルとして持ち帰ったマダイを机上に並べ、1匹ずつ、体長、体重を計ります。マダイは個体差がかなりあるので、100匹分の体長、体重を測定し、平均を算出するのです。それにしても、想像以上のマダイの個体差にはビックリ! 前々回のレポートで、えさをガツガツ食べる"ガッツ系"と控えめな"おとなし系"のマダイがいることをレポートしましたが、どうやら成長のスピードにもいろいろな個性があるようです。

ということで、結果発表!
平均体長 66.73mm 平均体重 6.03g

放流には十分なサイズに成長しています。受精卵の状態から取材しているので、LOVE BLUE取材班としても、なんだかすごく嬉しいです!
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マダイには、かなり個体差があります。平均を算出するため、100匹分の体長と体重を計測していきます。
 さて次は、鼻孔隔壁の欠損を確認します。 通常(天然)のマダイは鼻孔が左右に2つずつあります。ところが人工的に育てたマダイは、かなり高い確立で、その鼻孔が繋がって1つになってしまうのです。これを「鼻孔隔壁欠損」と言います。欠損してしまう理由については、まだ明確には分かっていないのですが、おそらく何万匹が泳ぐ密度の高い水槽の中で成長していく過程で欠損が生じるのではないか...と推測されています。ちなみに鼻孔隔壁欠損の有無は、放流後のマダイの成長には大きく影響を及ばさないそうです。稚魚の段階で海に放流され、そこからは天然マダイ同様に荒波にもまれ成長していくわけですから、放流マダイたちも力強く大きくなっていって欲しいものです。
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左が鼻孔隔壁欠損なし、右が鼻孔隔壁欠損ありのマダイ。右は、鼻孔が繋がってひとつになっている様子が分かります。
 放流前に必ず「鼻孔隔壁欠損」の割合を算出する理由は、放流後、成魚となってから釣り上げられたり、漁獲されたマダイの何%が放流魚にあたるかを鼻孔隔壁欠損の有無を確認することで推定することが出来るからです。今回の「鼻孔隔壁欠損」率は95%。つまり、ほぼ全ての放流魚が「鼻孔隔壁欠損」をしていると言えます。ゆえに、約2~3年後、釣り上げられたり漁獲されたマダイの成魚に「鼻孔隔壁欠損」の割合が多ければ、放流は一定の成果があったと結論づけることが出来るのです。
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測定用サンプル100匹の鼻孔隔壁を調べ、欠損の割合を調べます。
 受精卵から孵化して約3ヶ月。稚魚の成長を見守った放流までの時間はとても短いものでしたが、その本当の成果が得られるのは、まだまだ先なのです。

 台風などの影響もあり、予定よりやや遅くなりましたが、待ちに待った放流は、8月上旬と決まりました! 次回はダイナミックな放流の様子を紹介します。

お楽しみに。
Vol.7 放流までのカウントダウン、始まっています!
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(昨年の放流時のマダイ>写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
放流がいよいよ目前に迫ってきました。ここまで無事に成長したマダイの赤ちゃんを見て、スタッフの皆さんも嬉しそう。そこで今回は、放流直前企画! 「教えて鈴木さん! マダイの飼育Q&A」。神奈川県栽培漁業協会 飼育スタッフのリーダー、鈴木さんにマダイの飼育に関して、いろいろと教えていただきました。
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マダイの飼育担当リーダーの鈴木さん。マダイを始めとするさまざまな放流用種苗(稚魚・稚貝)の生産・育成を行う現場のリーダーです。
Q1.
マダイの飼育過程で、一番気を遣うことは何でしょうか?
A1.
施設内の水槽で飼育する陸上飼育と沖出し後に生簀網で飼育する海上飼育では、気を遣う箇所が違います。陸上飼育で大事なことは、エサと水。エサをきちんと作ることと水をキレイに保つことが、なにより大事です。海上飼育で大事なことは、網の交換。生簀が海の中ですから、網には水草や貝などが付きますし、どうしても網が汚れてきます。マダイの体調にも影響があるので、網をキレイに保つことは大事なのです。雨や台風など、天候に関しては、どうしようも出来ないですね(笑)
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陸上飼育(写真左)と海上飼育(写真右)では、マダイを育てる環境がまったく違います。
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生簀網に結んで垂らしていたロープなどには、海藻や貝などがすぐ付着してしまいます。
Q2.
他の魚と比べて、マダイの飼育にはどんな特徴がありますか?
A2.
飼育に関しては、マダイだけ特別に違うところはありません。どれも飼育過程は基本的に一緒です。ただし、成長の速度は魚ごとに多少違いはあります。
Q3.
今年のマダイの成長はどうでしょうか?
A3.
今のところ、とても順調ですよ! ただ、まだ放流を迎えていませんし、 結果が出ていないので、飼育担当としては、いまは何とも言えません。
Q4.
飼料(エサ)について、教えてください。成長にあわせて与える飼料が変わっていきますが、どのように変化していくのでしょうか?
A4.
魚の成長にあわせてエサを大きくしていく、というのが基本的な考え方です。プランクトンである"ワムシ"から始まって"アルテミア"、そして"配合飼料"へと変わっていきます。配合飼料のサイズも、マダイの成長にあわせて大きくしていくんですよ。つまり、魚の口の大きさにあわせて、エサのサイズも変わるというわけです。魚は成長しているのに、小さいサイズのエサのままだと、いっぱい食べないとお腹がふくれないですよね。それでは効率が悪い。人間と一緒です。
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写真左はワムシ培養の様子。写真右はアルテミアの様子。(右写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
Q5.
海上生簀網でのマダイ飼育の1日の流れを教えてください。
A5.
朝7時半からエサを撒き始めます。1回あたり1時間半〜2時間かけて、8面ある生簀網すべてにまんべんなくエサを撒きます。その間にマダイの色や大きさなど、体調もチェックします。エサ撒きだけでなく、網の管理も欠かせません。エサを与えるのは、朝、昼、午後、夕方の1日に4回程度。その都度、マダイの様子を詳細にチェックします。
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現在、海上生簀網でマダイにエサを与えるのは、主に小笠原さん。もちろん鈴木さんも頻繁に観察に訪れます。
Q6.
孵化から陸上飼育、沖出し、海上飼育、放流までの過程の中で、鈴木さんが一番好きな過程(作業)はなんですか?
A6.
沖出しと放流(出荷)です。やはり達成感がありますから。それまでは心配が絶えないですね。マダイの飼育は生き物が相手ですし、しかも稚魚ですから、何があるか分からないので。
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6月初旬に行った沖出しの様子。ダンベに入れたマダイの赤ちゃんを、優しく丁寧に、かつダイナミックに海上生簀網に運びます。
Q7.
マダイの様子を観察する際、もっとも注意してチェックするところはどこですか?
A7.
泳ぎ方と色です。黒ずんでいるマダイがいないかどうか、変な泳ぎ方をしているマダイがいないかどうか。そこは注意して観察するようにしています。
Q8.
今年のマダイの飼育で、例年と比べてなにか工夫したことはありますか?
A8.
前の年よりも、よりたくさん、さらにキレイな魚を作ること。これは毎年、僕の中で目標にしていることです。水量を調節して水質管理をしたり、初期飼料の栄養強化剤をなるべく減らす工夫もしています。栄養強化が強すぎるのもマダイにとって良くないので、適量を探っています。
Q9.
放流可能なマダイのサイズの目安を教えてください。
A9.
4月下旬の孵化から7月初旬までの間に、マダイは全長約50mmにまで成長しました。本格的な夏に入ると気温も上がり、マダイは一気に成長していきます。なんとここから先は、1日に約1mmのペースで成長するんですよ。マダイの大きさが全長約60mmを超えると、放流日を確定し、準備に取りかかります。
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4月下旬に撮影したマダイの受精卵の様子。約3ヶ月後には体長60mmにまで成長するのです。(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
Q10.
最後に、飼育しているマダイに対して愛あるひと言を!
A10.
「つり環境ビジョン」から委託され、4月からマダイの赤ちゃんたちを育ててきました。このマダイたちはもうすぐ放流となりますが、放流すれば終わり...、ではないと思っています。海に放流したマダイたちが、大きく育って、釣りあげられたり、市場にあがって欲しい。それがひとつの放流効果だと思っています。今年育てたマダイたちが、数年後に目に見える成果となってくれれば、嬉しいですね。愛というよりも責任かな。
 Q&Aを通して、改めて、飼育担当の皆さんのご苦労を知ることができました。ちなみに生簀網だけでなく、防鳥ネット(網)の管理も大切な作業なのだとか。マダイの赤ちゃんを食べようと狙っている鳥がたくさんいるのです。少しでも網に隙間があると、鳥が首を水中に突っ込んで、マダイを食べてしまうのだとか。近隣にはアオサギ、シロサギなど、サギ類が多く生息しているため、注意は欠かせないそうです。
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海上生簀網の周囲は木々が多く、多くの野鳥が生息しています。隙間から首を突っ込んでマダイを食べてしまうので、防鳥ネットを隙間なく生簀に張り巡らせています。
 放流までのカウントダウン、始まりました。次回のレポートでは、いよいよ放流の様子をご紹介できると思います。お楽しみに!
Vol.6 マダイの食事時間は1回あたり2時間!?...の理由とは
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雨と曇りを繰り返す梅雨まっただ中の7月初旬。海上生簀網のなかで元気に育つマダイの様子を見に行きました。残念ながら取材日も小雨が降る陰鬱な天気でしたが、マダイの赤ちゃんは元気いっぱいに泳いでいました。
 LOVE BLUE取材班が海上生簀網に向かうと、飼育担当の小笠原さんが出迎えてくれました。海岸からボートに乗り海上生簀へ。生簀に着くと、早速エサ(配合飼料)を撒き始めた小笠原さん。8面ある生簀のすべてにまんべんなくエサを撒くのは、実は、かなり大変な作業なのだとか。
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端から端まで、マダイの様子を確認しながらエサを撒いていくのは、なかなか大変な作業なのです。
一日に何回、エサを撒くのかを小笠原さんにお聞きすると、
「海上生簀にいる約85万匹のマダイの赤ちゃんには、1日に4回ほど、エサを撒きます。最初のエサ撒きは、朝7時半から。いわゆる"朝ごはん"ですね。その後はマダイの様子を見ながら、昼、午後、夕方とエサを与えます。1回当り、1時間半〜2時間かけてエサを撒くんですよ」
1回のエサ撒きに2時間? ずいぶん時間がかかるような・・・。
「ただエサを撒けばいい、というわけじゃないんです(笑)。マダイにも個性があって、エサを撒いたとき、積極的にエサを食べにくるタイプと控えめでおとなしく、なかなかエサにありつけないタイプがいる。そのおとなしめのマダイたちにも、ちゃんとエサを食べてもらいたいので、エサの撒き方にも工夫が必要なんです」
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エサを撒くとすごい勢いでマダイたちがエサに食らい付きます。しかし、そんなマダイたちに気後れしてしまうのか、なかなかエサを食べられない控えめなマダイたちもいるのです。
 エサを食べる際のマダイにも、それぞれ個性があるというのは、LOVE BLUE取材班にとっては面白い発見でした。しかしそれ以上に驚いたのは、小笠原さんたちのエサ撒きの工夫です。

勢い良くエサを食べるマダイと控えめにエサを食べるマダイと、両方にエサを食べてもらうために、神奈川県栽培漁業協会では、海上生簀網のマダイに与えるエサを2種類、用意しているそうです。エサ撒きの手順はこんな感じ。
最初に撒くエサは、硬く水に溶けにくいタイプ。エサを撒くと同時に、水面に上がってきて勢い良く食べる大きくて強い"ガッツ系"なマダイたちに、まずはたっぷり食べてもらう。
"ガッツ系"なマダイたちは、ある程度、お腹いっぱいになると落ち着いて、水中下方に沈んで(泳いで)いくので、その様子を確認。
お腹いっぱいになった"ガッツ"系のマダイたちが下に沈んでいくと、"ガッツ系"に気後れしてエサを食べられなかった"おとなし系"のマダイたちが水面に上がってくる。
そこで、ポロポロと細かく砕けて食べやすいクランブルタイプのエサを撒く。
水面に浮くフロートタイプのため、"おとなし系"のマダイたちもゆっくり食べることができる。
8面すべての生簀にエサを撒き終わったら、防鳥ネットを外して、マダイのお腹の膨れ具合を見る。マダイたちにまんべんなくエサが行き渡っているかを確認。
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左が先に撒くエサ、右が後から撒くエサ。水への浮き方、溶け方などの違いを活かして、すべてのマダイにエサを食べてもらえるように2種類を用意しているのです。
 エサを撒くという作業に、コレだけの苦労があるとはびっくり。1回のエサ撒きに、2時間かかるという理由が分かりました。マダイの飼育は、本当に奥が深いです。次回も知られざるマダイ飼育の様子をお伝えします。

お楽しみに!
Vol.5 85万匹の赤ちゃん、元気に泳いでいます!
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神奈川県栽培漁業協会のスタッフの皆さんが、朝早くから準備を始めてマダイの沖出しを行ったのが6月初旬。その沖出しから数日経ったある日、LOVE BLUE取材班が様子を見に訪れると、マダイの赤ちゃんは海上の生簀網のなかですくすく育っていました!
 前回では沖出し前半の様子をお伝えしましたが、マダイの赤ちゃんをダンベに入れて海上筏まで運ぶ様子は、本当に大変なものでした。ところで、Vol.4のレポート最後に出した問題の答えは、分かりましたか? ダンベに入ったマダイの赤ちゃんを海上の生簀網に移し入れる方法とは......? 実は「サイホンの原理」を利用して行うのです。サイホンの原理とは、大気圧を利用し、管を使って液体を高い位置に持ち上げ移動させるメカニズム。始点と終点における液体の高さの差を利用して、高いところの水を低いところへ移す仕組みです。言葉にすると難しそうですが、つまり、ホースを使ってダンベのなかのマダイの赤ちゃんをそっと吸い込み、海上の生簀網のなかに流し入れるという方法なのです。高低差を利用することで、稚魚にストレスを与えることなく、自然に流し入れることができます。
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サイホンの原理を利用して、高い位置にあるダンベから低い位置の生簀網のなかに、ゆっくりとマダイの稚魚を入れます。
 最後に生簀に防鳥ネットを張って、沖出しは終了です。
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防鳥ネットを張ります。この手間が、マダイの稚魚を鳥から守ってくれるのです。
 沖出しでの飼育は、配合飼料などを一日数回与えながら、成長を見守ります。今年のマダイの赤ちゃんは、状態がとても良く、成長も順調だとか。嬉しいですね。沖出しから数日経ったある日、取材班が訪れたとき、ちょうど担当の小笠原さんがエサやりをしていました。配合飼料です。面白いのは、配合飼料を撒いた後に、水を撒いてエサを沈めること。生簀の下にいるマダイの稚魚もちゃんとエサを食べられるように、水面に浮かんでいるエサを、水を撒いて下に沈めるのだとか。マダイの赤ちゃんにもエサを積極的に食べるタイプとやや控えめに食べるタイプと、いろいろいるのですね。なんだか学校みたい! 担当の小笠原さんは、全部のマダイが均等に大きくなれるように、毎日、注意しながらエサやりを行うそうです。
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防鳥ネットをかぶせた生簀に配合飼料を撒く小笠原さん。マダイの稚魚たちがエサを食べに水面に集まってきます。
 さて、これから夏の放流まで、海上生簀網での飼育が続きます。成長に合わせてエサを変えたり、生簀網の幅を広げたり、細やかな対応が必要になってきます。海上での飼育は雨や風、気温など天候にも大きく左右されますし、鳥からも守らなくてはいけないので、なかなか気が抜けません。飼育担当の小笠原さんによると、今年のマダイの赤ちゃんは、今のところ順調に成長しているとのことなので、夏の放流まで、どうかこのまま無事に大きくなりますように......。

次回のレポートもお楽しみに!
Vol.4 海上筏の生簀網に沖出しの巻!
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受精卵から無事に孵化し、すくすくと成長を続けるマダイの赤ちゃん。徐々に大きくなってきたマダイの赤ちゃんは、6月初旬、海上筏の生簀網に移送されました。これは「沖出し」と呼ばれています。今回のレポートは、その様子をご紹介しましょう!
 マダイの沖出しは、夏に予定されている稚魚放流までのなかでも、重要な飼育過程の一つ。神奈川県栽培漁業協会の皆さんも、朝早くから準備に入ります。
さて、ここで問題。"朝早く"というのは、いったい何時頃のことかと思いますか? 実はマダイ飼育の現場責任者でもある鈴木さん(Vol.3で登場)や担当の小笠原さんは、夜中の12時過ぎには移送準備を始めたのだとか。円形水槽の底面の清掃など、他のスタッフが集まる前に準備を整えるのだそうです。彼ら曰く「生き物が相手なので、マダイがなるべくストレスを感じないように、作業をスムースに行うためのしっかりとした準備が必要」なんだとか。なんとも頭が下がります。その後、午前4時過ぎにはスタッフが集合。いよいよ沖出しです!
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沖出し前のマダイの赤ちゃんたち。円形水槽の中で元気に泳いでいます。
 沖出しの作業手順としては、まず最初に、移送用のダンベに稚魚を入れる必要があります。水位を下げた円形水槽にスタッフが入り、網を広げます。そしてマダイの赤ちゃんをゆっくりと網の中に追い込んでいくのです。追い込んだ稚魚をバケツですくって、ダンベに入れます。1回の追い込みでは円形水槽内の全部の稚魚をすくいきれないので、何度も網で追い込み、バケツですくってはダンベに入れます。稚魚が入ったダンベを海上筏近くまでトラックで運び、ダンベごと移動用桟橋に載せ、海上筏に向かいます。そしてやっと、沖出しとなる訳ですが、マダイを孵化から育ててきた円形水槽は全部で4つ。マダイの追い込みから海上筏での沖出しまで、一連の作業を何度も繰り返し、作業が終了したのは午後14時半を回っていたとか。
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円形水槽内のマダイの赤ちゃんを網の中に追い込み、バケツですくってダンベに入れます。
(上2枚写真提供:神奈川県栽培漁業協会)
 移送の際、一番気をつけなくてはいけないのは酸素。ダンベの中にたくさんのマダイの稚魚が泳いでいる状態になるので、酸欠になりがち。酸素を充分に送り込んで、酸欠に注意しながら運びます。
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狭いダンベのなかにたくさんのマダイの稚魚がいるので、酸欠になりやすいのです。そこで、新鮮な酸素をたっぷりと送り込みます。準備ができたら、海上生簀に向けて出発です。(左写真:神奈川県栽培漁業協会)
 白々と夜が明けてきた頃、ダンベを載せた移送用桟橋を船で曳航して海上筏に向かいます。海上筏に着くと生簀網に移します。さてここで、2度目の問題。どうやって海上の生簀網にマダイの赤ちゃんを移していくのでしょうか? まさかダンベをひっくり返して生簀網にドドドドド〜〜っとマダイの赤ちゃんを流し入れるなんて、想像しないでくださいね。赤ちゃんはとってもデリケート。大事に扱わないと、すぐに弱ってしまいます。
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ダンベを筏に載せ、船で曳航して運びます。海上生簀に着いたら、いよいよ沖出しです。
 神奈川県栽培漁業協会の皆さんが行う、その意外な移送方法は、Vol5で紹介します。次回のレポートも、どうぞ、お楽しみに!
Vol.3 パクパク食べて、大きく成長!
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(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
受精卵の搬送から孵化の様子までをご紹介した前回のレポートを経て、連載第3回目の今回は、受精卵が孵化してから17日目のマダイの赤ちゃんの様子を紹介しましょう!

マダイの赤ちゃんは、最初は腹部にある卵黄から栄養を吸収して成長していましたが、約1週間後に口が開き、すでにエサを食べ始めました。(公財)神奈川県栽培漁業協会で培養された新鮮なワムシをせっせと食べて、孵化17日目で6mmほどの大きさに成長。6mmと言うとまだまだ小さいイメージですが、孵化した時は2mmだったのです。たった2週間ちょっとで約3倍の大きさになったことを考えれば、驚異的な成長力です。
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現在、5つの水槽でマダイの赤ちゃんを飼育中!
ちなみに成長過程は、こ~んな感じ
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孵化直後:約2mm
1週間後:約3.5mm
10日目:約4.3mm
17日目:約6mm
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
つり環境ビジョンで実施する、専門機関と連携した放流事業のためのマダイ飼育を、現場で担当してくださるのは鈴木将幸さん。鈴木さんによると、孵化後の成長で大事なことは、まず「清潔さを保つこと」だとか。生まれたばかりの生き物を相手にしているため、毎日の水槽の手入れは大事な作業。貝殻をパウダー状に砕いた「貝化石」を水槽に入れるなど、水質の安定させることにも気を配っていました。もうひとつ大事なことは、「絶対にエサを切らさないこと」。エサを食べ始めるようになると成長速度も上がることから、マダイの赤ちゃんはとにかくよく食べるそう。
「マダイの赤ちゃんは、毎日順調に成長しています。今は1日2回、ワムシを与えているのですが、万が一、エサの量が少ないと、共食いしてしまう可能性もあるので気が抜けません。土日や祝日などの休日でもマダイのことがどうしても気になって、ついつい、水槽を見に来てしまうこともあるんです(笑)」
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マダイの飼育担当の鈴木さん。休日も、担当している"育ち盛りのマダイ"のことが気になってしまうとか。右写真は、水槽に貝化石を入れる鈴木さん。
エサは成長にあわせて変化し、孵化から20日くらい経つとワムシだけでなく、アルテミア(ブランシュリンプ)も加わります。
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アルテミア培養の様子。(右写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
パクパク食べて、どんどん大きくなって欲しいものです。

6月に入ると、いよいよ室内の飼育水槽から海上生簀網に移しての飼育が始まります。次回のレポートもお楽しみに!
Vol.2 マダイの赤ちゃん、誕生!
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(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
爽やか風が吹く5月初旬、LOVE BLUE取材班は(公財)神奈川県栽培漁業協会を再び訪ねました。4月下旬にはマダイの受精卵が届くと聞いていたため、いったいどんな様子になのかワクワク、ドキドキ。生き物の赤ちゃんの誕生は、やはり気持ちがウキウキします。そこで今回は、マダイの受精卵が届いた時の様子を紹介しましょう。
4月20日。
静岡県浜岡町にある温水利用研究センターから(公財)神奈川県栽培漁業協会にマダイの受精卵が届きました。その数なんと、300万粒。マダイは春先の夕暮れ時に産卵をするため、19日夕方に静岡県で産卵された受精卵が、翌日の20日には神奈川県に運ばれてきたというわけです。
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マダイの受精卵の様子。1粒は約0.9mmの大きさです。
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
受精卵の大きさは、約0.9mm。
まさに無数の"粒"である受精卵の到着後は死卵などを取り除き、5つの水槽に均等に入れられます。つまり、1つの水槽に50〜60万粒という計算です。

文字にすると簡単そうですが、実はこの作業がけっこう大変!
届いた受精卵を、ただ水槽に入れればいいという訳ではありません。受精卵はとってもデリケート! 温水利用研究センターの水に入ったマダイの受精卵を栽培漁業協会の水槽の水(水温)に、まず慣れさせる必要があるのです。水温調整が終わると死卵などの健全でない受精卵を除去。人の手でそっとパンライト内を撹拌し、遠心力を使って選別します。相手は生き物、しかも卵ですから、やはり作業は慎重そのもの。機械などは使わず、スタッフが丁寧に手作業で行います。水槽に放つのは、それからです。
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パンライト内をぐるぐる撹拌します。遠心力を利用して死卵を取り除くのです。
その後、受精卵をそっと水槽に入れます。
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
ところでマダイの受精卵が孵化するのは、産卵からどのくらい後のことでしょうか?

答えは、約20数時間後とか。
つまり、19日の夕方に産卵された受精卵は、20日の夕方にはめでたく孵化・・・となるわけです。

孵化したマダイの赤ちゃんは約2mm。う〜〜む、まだまだ小さい。
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孵化したばかりのマダイの赤ちゃんの様子。
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
今回はクイズをもう一題。 孵化したマダイの赤ちゃんは、しばらくは腹部に付いている卵黄から栄養を吸収しながら成長します。つまりこの時点では、まだエサを食べません。ゆえに口がありません。では、マダイの赤ちゃんの口が開くのは、孵化から何日目?
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口が開いたマダイの赤ちゃんの様子。
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
答えは、約1週間後。
口が開いていく様子は感動! 子どもの成長に目を細める、まさに親の気持ちになります(笑)。エサとなるのは、Vol.1で紹介したワムシ。お腹いっぱい食べて、どんどん大きくなっていくマダイの赤ちゃん。エサを食べ始めた赤ちゃんは、ここから一気に成長していきます。

孵化した後のかわいいマダイの赤ちゃんの話は、次回のお楽しみに。
Vol.1 放流活動、いよいよスタート!
平成27年度 つり環境ビジョン「マダイの稚魚放流」に向けた活動が始まりました。昨年に引き続き、孵化、飼育、放流までを公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会に協力いただいています。7月末に予定している放流までの約3ヶ月間、その様子を詳細にレポートしていきますので、どうぞお楽しみに!

まずは、放流までの流れを簡単にご紹介しましょう。
  • 4月中旬>マダイ仔魚の初期飼料となるワムシを培養
  • 4月下旬>マダイの受精卵が漁業協会に到着、室内の水槽での飼育スタート
  • 5~6月>孵化から体長16.0mm程度になるまで飼育
  • 6月上旬>室内水槽から海上生簀網に移して飼育
  • 7月下旬>放流前のマダイ計量
  • 7月下旬〜8月上旬>いよいよ放流!
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平成26年度の放流の様子。約20万匹を東京湾口の松輪沖、横須賀東部沖、金沢沖の3カ所4地点に無事放流しました。
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
第1回目の取材として公財)神奈川県栽培漁業協会にうかがったのは4月中旬。マダイの受精卵到着に備えて、初期飼料となるワムシの培養中でした。ワムシのエサとなるのは、淡水クロレラ。なんと毎日、九州から新鮮な淡水クロレラを仕入れているのだとか。ブクブクと泡が立った水槽を覗くと、抹茶のような独特な「緑」の匂いがしました。健康に良さそうな(笑)匂いです!

「新鮮な淡水クロレラを毎日投入して、ワムシを良い状態に培養することが重要。マダイが孵化する前の大事な作業です」そう語るのは、公財)神奈川県栽培漁業協会 専務理事で水産学博士でもある今井利為さん。マダイの飼育は、孵化してから始まるのではありません。親魚の飼育施設から受精卵が運ばれてくる前から、初期飼料となるワムシの培養という作業が始まっているのです。
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ただいまワムシの培養中! 泡がブクグクしています。
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ところでワムシのこと、ご存知ですか? プランクトンの一種でこ~~んな姿。
(写真提供:公益財団法人 神奈川県栽培漁業協会)
「豊かな海であること、それが本当に大事だと思います。その意味で、"人と自然がお互いに共存できる豊かな海づくり"にこの活動が少しでも役立って欲しいと思っています」今回の取材で、そう話してくれた今井さんの言葉が印象的でした。

これから放流までの約3ヶ月間。公財)神奈川県栽培漁業協会の皆さんの協力を得ながら、マダイの稚魚放流までの活動をレポートしていきます。お楽しみに!
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公財)神奈川県栽培漁業協会 専務理事の今井さん。これから約3ヶ月間、よろしくお願いしま~す!